1日で終わる審美治療、本当に良いことでしょうか?
最近は1日で終わる審美歯科(1DAYトリートメント)であったり、1日で終わる矯正歯科(セラミック矯正)などを目にする機会が増えてきました。
これは光学印象と呼ばれる小型スキャナーによる歯型取りのデジタル化と、院内用のCAD/CAM システムの進化が大きな理由です。これにより従来1週間から10日間ほど必要だった待ち時間が、最短1日でセラミックの白い歯の治療をおこなうことが可能になりました。
確かに治療にかかる日数(時間)の短縮は患者さんにとっては大きなメリットであることは間違いありません。では審美歯科の治療において重要な機能面や審美性はどうなのでしょうか?
宮本歯科での光学印象と院内用の歯科CAD/CAMシステムによる審美治療は、導入テストの結果、私の求める品質(適合精度および審美性)を満たせませんでした。このため宮本歯科では、自由診療で提供する診療サービスとして不十分なレベルと考え、2024年12月現在導入しておりません。
その理由となる宮本歯科における審美歯科治療といわゆる1DAY審美治療の違いを、私なりの4つの視点からお話したいと思います。
- 1.患者さんの負担の違い
- 2.精度の違い
- 3.審美性の違い
- 4.費用の違い
1.患者さんの負担の違い
宮本歯科では、印象時(歯型とり)に印象材(シリコン)がお口の中で固まるまでの数分間お待ち頂く必要があることから、嘔吐反射の強い方にとって負担となる事があります。
これに対して1DAY審美で使われる光学印象では、ペンのようなスキャナーをお口に入れ歯型をコンピューターに読み取り、瞬時にモニター上でデジタルの模型を再現します。このように印象時の負担が少ないのが光学印象の特徴です。
1DAY審美歯科 | 宮本歯科 | |
---|---|---|
患者さんの負担 | 〇 | △ |
2.セラミック(詰め物、かぶせもの)の精度の違い
現時点での光学印象+院内 CAD/CAM の欠点は、ここに集約されるといっても過言ではありません。
(1) 歯肉縁下の印象精度
詰め物や被せ物を作る際にマージン(詰め物やかぶせものの境界線)を歯肉縁下(歯肉の深いところ)に設定することが非常に多くあります。宮本歯科ではこの場合に圧排糸による歯肉圧排という準備処置を併用して精密な印象を行います。
光学印象においても歯肉圧排は必要最低条件ですが、歯肉圧排を行っても光学印象はシリコン印象に比べ歯肉縁下の精度が劣ります。
(2) 複雑な形の詰め物(インレー・アンレー)の適合精度
1つの歯に複数の虫歯がある場合など、虫歯を取り除いた部分の形がとても複雑になることは珍しくありません。その場合も歯科医は、健全な歯質は強度を考えながら可能な限り残して詰め物を作ります。
宮本歯科ではこのような複雑な形の詰め物(インレー・アンレー)の場合は、e.maxシステムというガラスセラミックを使用し、技工士が手作業で製作しています。このような複雑な形態の詰め物の場合、1DAY審美に使用する院内 CAD/CAM では対応しきれないことがあります。とは言え単純な形態にするために、健康な歯を余分に削っては本末転倒です。
CAD/CAM でこのような複雑な詰め物を作った場合は歯科技工士や歯科医師が手作業で修正が必要であったり、通常の印象作業を併用することがあります。それでは光学印象 + CAD/CAM 本来のメリットが活かせず、トータルで考えた際に極めて中途半端になってしまうと私は考えます。
1DAY審美歯科 | 宮本歯科 | |
---|---|---|
セラミックの精度 | △ | ◎ |
3.審美性(美しさ)の違い
1DAYの審美歯科は院内での CAD/CAM システムによってセラミックをブロックから削り出します。このセラミックブロックには何種類かの素材と色の中からその症例に一番近いブロックを選びます。歯科技工士のひと手間で多少の色づけをするクリニックもありますがご自分の歯と同じ色に合わせたり、歯の透明感や質感を再現するには不十分です。
特に前歯のかぶせもの(クラウン)などの場合には審美的な限界が問題になるケースもあると懸念されます。
宮本歯科ではかぶせもの(クラウン)の場合は技工所でその症例にあったジルコニアブロックを選び、ジルコニアのフレームまでをミリングマシンが製作し、そのジルコニアフレームの上に歯科技工士が数十種類のセラミックを手作りで築盛することで、精密で審美性の高い治療を提供しています。
現時点ではこの方法が審美的に最も理想的な方法だと考えられます。
詰め物(インレー・アンレー)の場合は前述のとおり、e.maxシステムというガラスセラミックを使用し、技工士が手作業で製作しています。この場合も1DAYのインレー・アンレーと比較し(精度だけでなく)審美的に優れます。
1DAY審美歯科 | 宮本歯科 | |
---|---|---|
セラミックの美しさ | 〇 | ◎ |
4.費用
同じ白いセラミックの審美歯科でも 1DAY 審美の方が治療費が廉価です。手間暇かけず自動化することでコストカット(技工人件費や材料費)が大きな理由です。これとひきかえに審美性や精度に一定の制約があります。
宮本歯科の精密審美歯科は 1DAY 審美と比較して高価となります。制作の工程でより時間と人手をかけていること、患者さん中心に治療を進めていることが大きな理由です。これと引き換えにシリコン印象での負担、またセラミックの作成をお待ち頂く時間が必要となります。
1DAY審美歯科 | 宮本歯科 | |
---|---|---|
費用 | 〇 | △ |
まとめとして
1DAY審美歯科 | 宮本歯科 | |
---|---|---|
患者さんの負担 | 〇 | △ |
セラミック(詰め物、かぶせもの)の精度 | △ | ◎ |
セラミックの美しさ | 〇 | ◎ |
費用 | 〇 | △ |
私は決して歯科のデジタル化を否定しているわけではなく良いものは取り入れるべきと思っています。ただし、そこには患者さんの利益が最優先されるべきで、医院のコスト削減や利益を優先するのは医療人として患者さんに対する責任放棄だと感じます。
患者さんが現実的な選択肢として、費用と時間が短縮できるメリットと精度や審美性に劣るデメリットを理解した上で、CAD/CAM によるレディメイドの 1DAY 審美歯科を選択なさることも否定しません。
しかし、費用と時間がかかっても治療の精度や審美性を最優先させたい患者さんにとっては従来どおりの治療方法に沿ったオーダーメイドの審美歯科が第一選択肢ではないでしょうか?
私が皆様にお伝えしたいのは、同じ「審美歯科」という言葉を使っていても1DAYの審美歯科と宮本歯科の提供する審美歯科によって得られる治療結果は決して同じものではないという点です。保険診療に対して高額となる自由診療だからこそ、妥協を許さない審美性と機能性が求められます。だからこそ宮本歯科では、いわばアナログであるシリコン印象を起点として、デジタルである CAD/CAM を活用しながら、歯科技工士がひとつひとつ手仕事で製作するオーダーメイドの審美歯科治療を選択しています。
現時点(2024年12月)では 、こちらに述べたことが宮本歯科としての結論です。しかし昨今のデジタル化の波は目覚ましく3年後、5年後が同じ結論であるとは言い切れません。宮本歯科はデジタルの進化に対して歩みを止めることなく、その時点で最善の審美歯科治療を提供して参ります。